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第62回自治体学校(オンライン開催) 平岡 敬 元広島市長からのメッセージ

 (2020/06/16)
 
このたび、第62回自治体学校(オンライン開催) 平岡 敬 元広島市長からのメッセージが届きました。
 ヒロシマの心を打つ文章であり、「記憶と継承――ヒロシマの責務」を読んでください。
 
                          2020年6月
 記憶と継承――ヒロシマの責務 
                         平岡 敬 
「核時代」の現実
  広島は原爆被爆以後、一貫して「核兵器廃絶」と「世界平和の確立」を訴えてきた。しかし、核兵器保有国は増加し、地球上には約1万3,000発の核弾頭が存在する。そのうえ、米国とロシアは2019年に中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄したため、新たな軍拡競争が始まっている。
 一方、世界には建設中も含めて500基の原子力発電所があり、これまでに幾つかの重大事故を起こし、人類は核をコントロール出来ないことが明らかとなった。
 今や私たちは戦時、平時を問わず、核の脅威にさらされる時代に生きている。これが「核時代」の現実である。だからこそ、地球の破滅を避け、人類が生き延びるためには、広島・長崎の悲惨な事実を明らかにし、その体験を人類が共有することによって、正義と人間性に対する正常な感覚を取り戻さなければならない。
核兵器は悪である
 昨年11月、広島を訪れたローマ教皇フランシスコは「戦争のために原子力を使うのは犯罪です」と述べ「核兵器の使用も保有も倫理に反する」と説いた。
 「核兵器は悪である」という認識は多くの国々が持っており、国連は2017年に核兵器禁止条約を採択した。これは核兵器を使用、開発、実験、製造、保有、貯蔵、移転などを禁止するだけでなく、核兵器による脅しの禁止も盛り込まれた、まさに史上初めて核兵器を非合法化した画期的な条約である。批准国が50か国になれば発効するが、今年6月現在、38か国が批准している。
被爆体験を訴え
 この条約の前文には「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に留意」するという表現がある。これは
被爆体験を訴え続けてきた広島・長崎の被爆者の声が国際政治に反映されたことの証である。
 ところが、核保有国は条約を無視しているばかりではなく、NPT(核拡散防止条約)で義務付けられている核軍縮への努力を放棄している。また「唯一の戦争被爆国」と言い、核保有国と非保有国との「橋渡し役」になると広言してきた日本政府は、米国に従属して核兵器禁止条約に背を向けている。
重い課題に直面
 この状況を打破するためには、広島・長崎はさらに核兵器廃絶の声を大きくしなければならない。しかし、いま生存被爆者の数は年々少なくなり、やがては一人も居なくなる時が来る。これまで広島は被爆者の迫真力に満ちた証言を梃子にして、核兵器の残虐性・非人道性を訴え、その肉声が聞く人々の胸を打った。被爆の惨劇の証言者が居なくなった時、広島はどのようにして原爆のむごさと平和への思いを伝えていくのか、という重い課題に直面している。
「記憶する」
  過去を忘れ、過ぎ去った時間を捨てて行く。それは時には生きていくための知恵として避けられないことでもあり、人間が常々繰り返してきたところである。したがって、「記憶する」という営みは決して自然な行為ではなく、努力を必要とする。忘却が当たり前の人間の日々の営みの中に、決して忘れてはならない記憶がある。その一つが被爆の記憶である。この記憶に向き合うには、過去の歴史に学ぶ心構えが大切である。
しかし、日本の現状を見ると、多くの日本人は歴史を直視しない。「核兵器廃絶の願い」を持ちながらも「核の傘に依存」していることの矛盾に目をつぶり、平和・安全保障にかかわる根本問題との取り組みを先送りしている。
無念をどう受け止めるか
 私たちが忘れてはならないことは、原爆によって殺された人たちの無念をどう受け止めるかということである。毎年、広島平和記念公園の慰霊碑に納められている死没者名簿には、新しい名前が書き加えられている。この人たちは原爆によって殺されたのである。その死者の無念はどうすれば晴れるのだろうか?
米国に「広島・長崎の原爆攻撃は間違っていた」と認めさせ
 私は、それは米国に「広島・長崎の原爆攻撃は間違っていた」と認めさせ、核兵器を廃絶することによってしか果たされないと思っている。しかし、米国の原爆攻撃の責任を追及する場合、日本もまたアジア・太平洋戦争で数々の国際法違反を犯したことを反省しなければならない。
日本人は広島・長崎の被爆を国民的体験とし、戦争の記憶として心に刻んでいるが、戦争の記憶は国によって様々である。米国は真珠湾攻撃をいつまでも覚えており、中国は南京事件を忘れない。
自らの過ちを認めつつ
 自らの過ちを認めつつ、他国の罪を責めるのは大変難しく辛いことだが、二度と核兵器を使わせないためには、米国の原爆攻撃の責任を不問にしてはならない。それは今の豊かな生活を享受している者が、死者の無念の思いを受け止め、その魂を安らかな眠りへいざなうためにしなければならない務めである.
「核のない世界」を創って
  ヒロシマ以後を生きている私たちは、今も放射能障害に苦しむ被爆者と物言わぬ多数の死者の思いを支えとして、核兵器の非人道性を世界に訴え、「核のない世界」を創って行く責任がある。広島は8月6日に祈りの日を迎える。しかし、すべてを祈りに閉じ込めてしまうことは、自らの精神の怠惰以外の何ものでもない。
芸術文化の形で伝えること
 被爆体験の継承には被爆資料や被爆遺跡の保存とともに、文学、絵画、彫刻、音楽、映画、演劇、アニメ、建築など芸術文化の形で伝えることが最もふさわしい。被爆体験が結晶して日本人の思想や精神の一部となり、芸術文化の形で伝承されていく時、ヒロシマの願いは世代や国境を越えて広がって行くであろう。
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