広島自治体問題研究所
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広島県民の「命の水」のゆくへ
(T.広島県が水道の民営化に向けて走ろうとしている)

 (2020/02/14)
 
広島県の主な水源と県営水道事業
はじめに
 私たちは、2020年1月17日付中国新聞の報道で、広島県が県内の水道事業を1つの企業団で統合していくことを知りました。
 しかし、広島県内の水道実情をあまりにも知らなさすぎる中で、今後どうなるのかの不安が先に立ってしまいます。それは、日頃空気のようで、自然である水道水が、ある時から民間事業者の利益の対象にされ運営されるということに不安を持ったからかもしれません。
  今日まで、広島県の水道行政は、太田川の河川に多くの発電用ダム建設と、土師ダム建設が行われ、高度経済成長の基盤づくりとともに、基幹的な水道の流れ道を県南部に作って、市町がそれを利用するという公共システムが確立していたと思っていたからです。また市町は、地域課題を解決するため、それぞれ独自の水道管理行政を行い、この間水道料金の値上げなどの話題が出てこなく安心していました。
 しかし、今回広島県と県内の市町の協議会が取りまとめた、「広島県における水道広域連携の進め方について」の報告書(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/life/630269_3506298_misc.pdf
を読むと、今までの水道管理に大きな問題が抱えていたことが分かりました。
 またこの問題の解決には、今後私たちに多額の負担が掛かることも明らかにされています。
 このことに一歩立ち止まってこの計画を振り返ってみたいと思います。

 
1.なぜ今、この報告書が出てきたのか
 この報告書の「はじめ」には、
○ 本県の水道は,県民の日常生活や社会経済活動に必要不可欠なライフラインとして,明治31 年に創設された広島市水道事業から始まり,高度経済成長期の建設・拡張期を経て,すべての市町で水道は普及し,現在,市町ごとに住民に対して水道水の安定的な供給が行われている。
 と評価しながらも、
○ しかしながら,今後の水道事業は,人口減少等に伴う給水収益の減少,施設の老朽化に伴う更新費用の増加などにより,経営環境の急速な悪化が見込まれ,市町によっては,経営が立ち行かなくなることが懸念される。
○ また,経験豊かな職員の大量退職などに伴い,水道事業を支える人材が不足し,技術継承が困難になるなど,水道サービスの大幅な低下を招くことも懸念される。
○ 更に,近年災害が多発する中,本県でも,平成30 年7月豪雨災害により広範囲にわたり長期断水が生じ,施設の強靭化や応急給水・復旧体制の整備など,危機管理事案に強い水道事業の構築がより一層求められている。

 と、今日の広島県の現状に対する危機感を述べていますが、これらの対策に、今まで、広島県・市町はどう尽くしてきたのかの反省は述べられていません。
 そしてこれらのことの反省はなく、いきなり「広域連携」を打ち出し、この推進にまい進し、平成30年1月に「広島県水道広域連携案」を策定し、平成30 年4月,市町と県の水道担当部局で構成する「広島県水道広域連携協議会」(以下,「協議会」という。)を設置し,議論を重ねていました。が、具体化が出来ないままでいました。このようなことを受けて
○ 国においても,水道の基盤強化を図ることを目的に,平成30 年12 月に水道法の改正を行い,その柱の一つに広域連携の推進を明記し,都道府県を広域連携の推進役として位置づけたほか,都道府県に対して,広域化の推進方針や具体的な取組内容を定めた「水道広域化推進プラン」の策定を要請されたところである。
○ こうしたことを踏まえ,今回のとりまとめは,協議会で出された様々な意見を参考に,水道事業の広域連携の推進に向けた基本的な枠組や具体的な取組などについて,県として考え方をまとめたものである。

 と、言いますが、国の主導による、補助金を糧に水道事業の広域化・統合、そして民間事業団化に向けて進もうとしているのです。
  平成30年12月の国会で成立した水道法の改正ですが、水道の問題は日本に暮らすすべての人たちが末長く向き合わなければならない重要なテーマであるにもかかわらず、衆議院での審議時間は8時間足らず、参議院での議論も極めて短時間で幕を閉じていました。安倍内閣の手によって強行採決されたこの法律が果たして、これからの広島県の報告書の通り実施していいものか、疑問も生まれています。
 
2.報告書の概要と問題点
 @中国新聞報道を参照すると
●県内を1つの企業団に統合めざす。
〇総務や人事、財務などの間接部門を統合、浄水場の運転管理や水質検査などの技術部門も段階的に一本化する。
●県内213か所ある浄水場は、ほぼ半分の115か所に集約できる可能性がある。 
〇今後40年間に最大1708億円を削減できる。
〇国の補助金を積極的に活用する。
●2021年4月をめどに、賛同した市町と基本協定を締結する。
〇最大3倍の開きがある水道料金の格差を調整するが、まだ統一について明記していない。
〇単独経営に比べ料金の上昇幅を4分の3程度に抑えられる。

 などと紹介されていますが、市町・県民から切り離された水道事業の姿と、あまりにも突然な結論に戸惑ってしまいました。
 
 Aこの報告書を読む前に、確認しておきたい問題点は
 このような戸惑いをなくすためにも次のようなことを各市町で分析して広報してほしいものです。
〇各市町の水道事業収支の現状の確認
〇更新事業の今までの実績の確認
〇管理する職員の在職経緯変化をつかむ
●市町民との接触し意見の集約、特に故障等の取扱い状況の確認
●首長・議長の水道事業の知識、水の大切さ、管理職員の技能認識、適切な更新の必要など、理解の確認
●市町村合併による経済的苦しさの状況とこれからの地域財政の再建の確認
●市町の既存の水道事業者、関係職場から意見の確認
〇災害時の現地技術者の確認

 これらのことは、今回の報告書では触れられていない問題もあり、過去の経験から23市町において独自の課題があり、それぞれの市町自身で水道開発・改変の歴史経験を持っており、これを確認することが必要ではないでしょうか。市民一人一人の命の水を粗末にしないことがいま、これからの水道事業の未来への発展を掘り起こすことにつながると思います。それぞれの街の形成において、必ず水問題はまず最初に話題になりその解決に努力が行われてきたことなのです。
 
 Bこの報告書の問題点
 この報告書を読み続け、気が付いた点を挙げてみました。
  V県内水道事業の将来見通しと課題 :報告書の目録参照
 ここで使われている人口の推移は、安倍内閣がこの間出してきた「自治体戦略2040構想」に使われた数値であり、今後の急激な地方自治体崩壊現象を極端に表しています。
 本来国の責任政策課題であるにもかかわらず、この数値で持って、国民の働く意欲をそぎ、地方自治体を国の統治のもとに従わせてこようとしてきたのです。また、このような推計値で事業期間を区切ることにより、長期・中期での計画策定ができず、水需要、施設更新、財務、人材・技術力などを、自分のものとして豊かにする原案なしに進むことは、これからの数年間で崩壊に向かっていくことを大変危惧します。水道技術を手放し民間企業に移譲し、これを再公制することのむつかしさは、今日世界各国から報告されています。

  W県内水道事業のめざす姿と広域連携の基本的枠組み
  この報告書でめざす姿を、「健全な経営基盤を確立を目指す」と一般的な責務を掲げており、広島県としての地域特性である、県営水道事業の指定管理者、民間企業(株式会社水みらい広島)が行っていることや、県北部での水道普及率の低さなどを問題視していません。
 また広域連携の基本的枠組みが、全域と3圏域の4つのパターンで検討することに限っており、その中心都市である広島市、福山市、三次市のみを対象としており、これから中心都市へ水道事業の集約と全県一つの民間事業団とを比較したすぎず、効率化のみを基準にすれば、一事業団になることは明確なことです。
 また受け皿の設定には、 県民の意見を聞くとか、議会のチェック機能は考慮されていません。また実施プロセスは、国の交付金をあてにしたプロセスで、県民への意見収集する時期は述べられていません。

  V広域連携の具体的な取り組み
 これは、水道事業の統廃合に向けた単なる技術的な道筋であり、過去の災害時の各水道施設の役割、存在意義の検討は行われていません。改めて今回統廃合される施設の歴史的設立経過・役割を明らかにしてほしいものです。
 ・現況と取組み方向の集約の基本で、核となる中心都市以外の周辺町での事業課題はカットされ、市町は単に受水者としての地位に置かれていきます。命の水を広域機関に売り渡すに尽きるもので、本来の身近な水道事業の大きな役割の欠落を見て、貧しくなります。
 ・まとめで、これから40年間の再整備で、水源が約2/3、浄水場を約1/2まで集約するとなっていますが大きな削減です。40年間の計画ではありますが、国補事業に乗れるのは10年間にすぎないとなっており、短い期間で更新事業を完了させるためには、一括発注とか大規模事業者への仕事づくりになっていきます。
 また、これまで、地域の住民の同意で持って作られてきた、農水省営農飲雑事業で整備された簡易水道財産の廃棄にも問題が出てくるようです。
 ・危機管理対策が述べられていますが、費用として81億円が計上されたにすぎず、具体的な対策や人員配備は掲載されていません。
 ・組織・管理体制の最適化では、企業団としての整備のありようが述べられており、水管理の監査委員の役割は述べられていません。水質検査体制は、現在6市と県が独自に行っていますが、統廃合で広がった検査業務量の増大は問題にされていません。この7機関で受託して行われることになっていますが、この検査結果報告は議会などで行われるのでしょうか。県民への水の安全性の周知が必要ではないでしょうか。
 営業窓口は、現在は58か所あり、32か所では人的対応が可能であり、給水契約の受付件数が約39万件/年(29年度)、料金の収納件数は約813万件/年ありますが、ほとんどが口座振替とコンビニエンスストアでの納付となっています。今まで市町独自の料金システムが導入されて、概ね5年ごとに更新されているようです。
 この取扱い方向は段階的に集約し、スマートメーターなどデジタル技術や委託の活用となっています。
 広域化することで、住民サービスの低下について、避けて通れず、納付できるコンビニエンスストアの拡大を挙げ無責任な体制を拡大しようとしています。ここでも国交付金の活用を挙げて、料金システムの統一を掲げています。
 給水装置業務で、今までこの工事の審査・工事立会い・完了検査など、受付公示件数が約3万件/年(29年度)あり、すべて各市町で行われていました。このような地域業務がありながら、今後の取組み方向として給水窓口の段階的集約、業務の見直しを行い削減することが示されており、各市町の地域からの水道業務削減が、地域経済を衰退させ、職員も中央へ集約されていくことでしょう。
 まとめの中で、組織・管理体制の最適化による、40年間で人件費が約328億円、その他の維持管理費が約379億円縮減でき、全体では約707億円のコスト縮減効果が見込まれると評価していますが、これらが市町の地域から削減されることによる地域経済の力は大きく衰退して、中央の都市に集中していくことを物語っています。
 このような選択と集中が、市町内の地域経済の循環の基礎要素を削いでいることに私たちは気を付けなければいけないと思います。
  3広域連携による効果を述べていますが、この40年間での総事業費はいくらであるか明らかではなく、単に節減効果費が1708億円となっているのですが、この総事業費で行われる経済活動の波及効果は大きなものでしょう。削減効果のみを挙げ、水道事業が地域経済に波及する関連効果算定をなぜしないのでしょうか。
 安倍内閣のめざす、国補補助金を手段として、各市町の水道事業を民間企業者へ丸投げを行ったとき、広島県内の市町の経済損失はこの削減効果以上に大きなことになるでしょう。
 この試算条件・結果の張り出しに比して、参考で収支推計(料金据置ケース)が示されていますが、ここでは広域連携で行うと、単独経営を維持した場合と比べ、10年で損益収支、資金収支ともに改善され、令和43年度には損益で約29億円、資金残高で、約1512億円の差を誇っています。
  
  Y工業用水事業
 今日産業構造の変化で重化学工業がピークを越え、組織内に新たな水環境創設で水需要減少の一歩をたどっていることは明らかです。これからは、現在工業用水を利用している企業との共存を図りながら、新たな水道水需要事業の開発を、地域事業家の真摯な努力支援を行っていきたいものです。
 またこの工業用水事業は大竹市・呉市・福山市と県が取組んでおり、財政基盤の大きな自治体であり、工業用水事業の活用を、自治体として企業と共同で行ってもらいたいものです。

  Z下水道事業の取扱い
 県内市町の下水道事業は、水道事業と同一組織で運営されているとか、事業ごとに複数の部局で所管しているなど、組織形態がそれぞれ異なっていることや、会計区分においても、企業会計に入れているものと一般会計で処理している市町と複雑であり、一律に定めることは困難であるとしています。
 事業の統合を検討する前に、これら市町の動向を注視して、支援していくことが大切ではないでしょうか。

  [ロードマップ
 今回の報告書では、この事業のロードマップが義務付けられています。今回検討したことを、国の言うとおり、上下水道事業の企業団化、民間経営化を県の義務として遂行させるために、令和2年には、基本協定策定、令和4年には企業団設立を先行させています。
 このような早期なロードマップを承認できるでしょうか、県民は承知していないと思います。急ぎすぎるロードマップは廃棄し、再度県民への説明を要請したいと思います。
 また、国に対し、この企業団設立で持って、はじめて更新事業の補助金を出すのではなく、更新事業計画が実行され効果がでた暁に、企業団設立を検討することとし、一刻も管理運営で問題となった水道施設更新事業を、各市町で行えるよう手配し、地域での水道事業家の活動を早めて起こしてほしいものです。

  【資料編】水道事業の各市町・県の経営指標が明らかになっています。市町間格差のある実態が明らかであり、問題点も早期に改善するよう、県独自の水道施設更新事業条例制度作ってほしいものです。
 また、県が行っている民間指定管理制度(株式会社水みらい広島:http://www.mizumirai.com/)は、早期に解消し、水道事業を県独自の経済政策として核として、企業局が関連事業化の輪を作ってほしいものです。

3.提言                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
 この報告書で、広島県内の水道事業を今後40年掛けて、一つの事業団体が統合してやる道筋を述べていますが、広島県内には、地域ごとに水道事業活動資金として営業収益をとらえるならば、最低1億円企業が存在しており、これが元気に活動するならば、決して小さくない額でなく地域を支えてくれるが明らかになりました。
 この営業収益を、市町の地域内での経済循環の潤滑油として働かせたならば、効果は大きくなるのではないでしょうか。
 しかし、この報告書の通り、中心都市にまとめられるととともに、一企業団の利益活動の資産として吸い上げられると、経済効果は地域へは帰ってこないものとなって、大変な損失をうむことがあきらかです。また負債も財産であると言いますから、これをどう転換していくかの材料にするために、知恵を働かせましょう。
 地域に人間が働いている場所がある限り、多くの知恵が生れ、地域で花咲かせることでしょう。また、このような資産形成の可能性を持った水道事業を地元地域経済の潤滑剤として働かせましょう。
 また今回明らかになった広島県営の水道事業のような規模をいかし、その力を使って、市町と相互に連携するならば、さらに大きな改善がされることも明らかなことでしょう。
 選択と集中の政策でなく、現況の実態を広く市民・県民に知らせ、地域の経済の持続的発展にいかに活かしていくかという視点を、地方自治体は今後生かすことを提言するものです。その先頭に広島県は立ってほしいものです。災害時代の訪れは、地域での持続的経済の発展こそ、太刀打ち勝源泉です。
広島県の水道の現状 平成30年3月現在
福山市広報 https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/81570.pdf
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